運命は全て決まっているのか?
我々は自由に物を考えることが出来るし、自由に行動することが出来ると思っています。
先人たちが時に政治的に、或いは時に音楽を使ったりもして何度も「自由が大切だ!」と叫んできました。
ですが本当に我々人間は自由にものを考えたり行動することが出来ているのでしょうか?
今回はそんなお話です。
「そんなの当たり前だ」と思うかもしれませんが、実はこの話はそう簡単ではありません。
実際にこの宇宙の全ては物理法則に支配されています。その中には当然、人間や人間の脳も含まれることになります。
一つ例を挙げましょう。
ビリヤードゲームで一つの玉を打つとします。では玉を打った結果はいつ決まると思いますか?
物理的には”玉を打った瞬間”に、玉の質量、速度、回転、跳ね返り係数の全てが決まることになりますね。
これらの物理量のデータを”初期条件”と呼びますが、初期条件さえ決まれば後は物理法則に則って力学通りに全ての玉が運動をします。
つまりどの玉とどの玉がぶつかり、どの玉がポケットに入るのかは打った瞬間に全て決まっているのですよ。
なのでこれは簡単に、コンピューターでシミュレートすることが出来ます。つまり実際の結果を見る前に、計算によって結果を知ることが出来るのです。
もう少しマクロな話ならば、例えばハレー彗星がいつ地球に接近するのかも全て決まっていて、1000年以上先のことまで簡単に計算できます。
同様に日食や月食も1000年先だろうが100万年先だろうが、いつどこで起きるのかが全て決まっています。計算が簡単なのでこれらは容易に予知もできます。
さて、私が何が言いたいのか判ってきたでしょうか?
我々の体も脳も、全て原子やそれを構成する素粒子から出来ています。つまり、”小さいツブツブ”から作られているのです。そしてそれらの運動の法則は全て物理学により解明されています。
ならばビリヤードの玉の例と同じ様に、例えばあなたが1分後に何を考え、何をしているのかまで理論上は計算により予知することが出来るはずですね。
ただしこれは主に以下の二つの理由により実際には不可能とされてきました。
一つは、現時点での初期条件を知ることが不可能であることです。
脳を構成する素粒子の数などというものは天文学的な数字なので、それら全粒子の現時点での位置、速度などを全て同時に知ることは現実的には不可能です。初期条件なので全てを“同時”に知らないといけないのですからね。
そして二つ目は、仮に初期条件を知ることが出来たとしても、1分後の脳の状態を計算するためには世界最速のスーパーコンピューターを使っても、時間が何十年(恐らくそれ以上)も掛かることでしょう。
つまり現実世界の1分後よりもずっと後になってから計算結果が出るので、これでは予知とは呼べません。これは例えるなら、明日の天気予報の計算結果が1年後に出るようなものです。
以上の二点により、あなたが1分後に何を考えているのかを事前に知ることは不可能なのです。ここまではいいですね?
では私から一つ、深遠な問いを投げかけます。
「我々が事前に知ることは出来なくとも、“決まってはいる”のではないか?」
つまり初期条件にしても計算時間にしても、何れもテクニカルな問題です。よってあなたが1分後に何を考えているかは確かに知ることは出来ないですが、ビリヤードの玉やハレー彗星の未来の様に、”決まってはいる”のではないか?と。イメージとしては、脳の中で素粒子という名の膨大な数のビリヤードの玉がぶつかっているようなものです。それらは全て物理法則に従います。
そうなると我々にはそもそも“自由意志”などというものは無く、始めから全て決まったことを考え、行動させられているだけだと解釈されますね。しかもそれが決まったのは最近ではなく初期条件が決まった時期、つまり宇宙が誕生した138億年前です。
我々人類はプログラムされたロボットと同じ様に、宇宙誕生時に決められたことをしているだけだ、と。
実は私が大学一年の時に初めて自分のパソコンで惑星のシミュレーション計算や分子動力学のシミュレーション計算をした時に、ふとそう思ったのです。(当時のコンピューターの性能は酷いものでしたが……)
当時の私は将来のことについて色々と悩んでいましたが、実は今自分が悩むことも全て138億年前に決まっていて、更に将来の結果も全ては決まっていることにならないか?と考えたものでした。
実はこの考え方はまったく突飛なものではなく、20世紀初頭までの物理学者は皆そう考えていたのですよ。
この様な考え方を、“決定論”と呼んだりしていました。まあ乱暴に言えば、全ては運命で決まっているような考え方ですね。
決定論が正しければ今あなたがこの文章を読むことも、その後に感じることも、全ては宇宙誕生時に決まっていたことになります。
20世紀初頭までと言いましたが、現代に於いても少なくとも95%以上の人々にとってはこの考えが正しいことになるはずです。具体的に言うなら、量子力学を知らない人々にとっては、この決定論が真実になるのです。
因みに正しく量子力学を理解している人など全世界の5%どころか1%もいないと思いますが……。
もちろん、大学一年の時の私もそうでした。
ところが20世紀に入って暫くしてから量子力学が誕生し、まあ紆余曲折ありながらもそれがどうやら正しい理論であることが判ってきました。
すると人間が自由意志を持っている可能性が出てきたのです。あくまで、“可能性”なのがミソですが。
さて、我々は本当に自由に物を考えたり行動したりすることが出来ているのでしょうか?
もしかしたらそう思い込んでいるだけでは?
我々は、本当に自由なのでしょうか??
この続きはまた改めて書くことにしましょう。
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