光速度不変の原理が示唆すること
一般に「光速は不変だ」だとか「光速は絶対だ」などと、よく言われていますね。
ですがその本当の意味を知っていますか?
今となっては当たり前のこの法則ですが、よくよく考えてみるとかなり“ぶっ飛んでいる法則”なのですよ。
一般にアインシュタインによって光速は不変であることが示されたとか、光速を越える物は存在しない事が示されたと言われていますが、実際は少し異なります。
光速度が不変であることはアインシュタイン以外の多くの物理学者らの実験によって発見されたのであり、アインシュタインは光速度の測定には関わっていません。
アインシュタインが行ったことは、もし“光速度が不変である”という訳の分からない実験結果をそのまま受け入れてみると、物理学は一体どうなるのか?といった考察なのです。
念のために簡単に光速度不変の原理を書いておきましょう。
まず始めに、この宇宙で最も速いのは真空中の光速であり、その速度よりも速く情報が伝わることはありません。物質だけでなく、”情報が伝わることはない”というのが正確です。(とされています)
まあこれは簡単なので殆どの人は知っていることでしょう。
次に上記の訳の分からない実験結果について簡単に説明してみましょう。
光速は秒速約30万キロメートルですが、それはどこで計った速度でしょうか?
恐らく実験された場所は地球上の止まった場所でしょう。しかしながら地球自体が宇宙の真空中を猛スピードで自転していますよね? 更に地球は太陽の周りを公転してもいます。更に太陽系自体も銀河の端っこの方にあり、銀河の中心の周りを猛スピードで回っています。更に銀河自体も猛スピードで動いています。
つまり地上の光の速度は真空中を複雑に動いている場所で測った、極めてローカルな測定なのです。
昔は真空中は、音を伝える空気のような役割をする何らかの媒体で満たされており、光はその媒体の中を伝わる波だと考えられていました。ですがその媒体が見つかることはありませんでした。つまり光は何も無い真空の中でも伝わるのです。
そして様々な実験により結果的に分かったことは、同じ光を違う速度で動く人が測定しても必ず秒速30万キロメートルと測定されることです。
つまり地上で止まっている人が光を測定すると秒速30万キロメートル。そして仮に光と同じ方向に秒速20万キロメートルで飛ぶ飛行機から“同じ光”を測定してもその速度は秒速10万キロメートルではなく、なんと秒速30万キロメートルになるのですよ。
???
この結果は正に意味不明ですよねぇ……。
もしも時速300kmで走るレーシングカーを時速200kmで走る新幹線で追いかけたら、新幹線から見たレーシングカーの速度は時速100kmに見えますよね? でもこの法則が光だけは当てはまらないのです。
光速の不思議さをこの例で言うなら、新幹線から見たレーシングカーも時速300kmで地上から見た速度と同じになるということです。もしレーシングカーが新幹線よりも300km/h速いのなら、逆に地上から見たレーシングカーは200+300で時速500kmになっているはずですがそうはならないということです。
これはなかなか感情的、或いは感覚的に受け入れにくい結果です。
事実この結果には多くの物理学者らが頭を悩ませ、何とか辻褄の合う説明を考えました。
実は特殊相対性理論で使われるローレンツ変換もその過程で半ば無理やり作られた物なのです。(ローレンツ変換は文字通りローレンツが作った式で、アインシュタインが作った式ではありません)
しかしながらアインシュタインはこの不可思議な実験結果を知った時に「なぜそうなるのか?」という感情的な疑問を一旦、棚に上げました。そして理由は分からないけどもし仮に光がそういう性質を持っているとしたら、物理法則はどうなるのか?を取り敢えず考えてみたのです。
そしてもしその仮定の下に作り上げた物理理論が実験により正しいことが確認されれば、それはすなわち仮定が正しかったことになり、不可思議に見えた光速度不変の実験結果や法則が正しかったと言えるでしょう。
多くの物理学者らが従来の思考で「どうしてそうなるのか」を考え様々な仮説を作っていたときに、アインシュタインは「どうしてかは分からないが仮にそれが正しいとしたら、物理法則はどうなるのか?」というアプローチで光速度不変の原理が正しいことを結果的に証明したのです。
違う速度の観測者から同じ光を観測しても速度が変わらないと言うことは、中学校でも習う
距離 = 速度 × 時間
の法則から、速度以外の物が修正される必要が出てきます。つまり、光に近い速度の物は時間が延びたり縮んだりしないと上式の帳尻が合わなくなるのですよ。でも時間が延びたり縮んだりするなんて、あまりにぶっ飛んでいると当時は思われました。いえ、現代を生きる皆さんもきっとそう思うのではありませんか?
ですがアインシュタインのこの仮説により導かれた理論は、実験により正しいことが分かりました。つまり時間は実際に延びたり縮んだりする。と言うことは始めに仮定した光速度不変の原理も正しいことが分かったのです。
(その理論こそがアインシュタインを一躍有名にした特殊相対性理論です)
なぜそうなるのかは、未だに誰にも分かりませんし感情的にも受け入れにくいかもしれません。
もし「なぜそうなるのか?」という問いに無理矢理答えようとするなら、恐らく人間原理を持ち出すしか無いでしょう。
ただ理由は分からなくとも「この宇宙はそうなっている」のです。そして物理学は辻褄さえ合えばそれで良いのです。
この様な手順で新しい理論が作られることは物理の世界では良くあることです。
古くは天動説と地動説の論争だってそうです。仮に(当時は荒唐無稽だった)地動説が正しいと仮定すると、惑星の不思議な運動が綺麗に説明できたのです。
でも当時は「なぜこの世界は天が動くのでは無く、地が動く仕組みになっているのか?」などと言った問いに答えることは出来なかったでしょう。
そして量子力学にいたっては、正に「どうしてそうなるのか」を無視し続けて発展してきた理論だと言っても過言ではありません。
もしも荒唐無稽でぶっ飛んだ仮説や理解に苦しむ実験結果があったとしたら、まずはそれを先入観無く無条件に受け入れてみて、仮にそれが正しいとすると何が起こるのかを物理的に考えて羅列していき、それらを一つ一つ実験によって確認していく。
歴史的に見るとこの手法により、人間が感情的に受け入れられないような大きな変革を起こす理論が生まれる事が多いです。
さて、なぜ今回私がこの話を書いたかというと、私も究極的な疑問に答えるためにこの手法を使うことを考えているからです。
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