IT革命は本当は何を変えたのか?


最近はメタフェイス系の話題が多いので、他のことにもちゃんと頭を使って分析しているというアピールとして(笑)、久しぶりに社会系のネタも書いてみましょう。

“IT革命”という言葉が一般に流通し始めたのは90年代の後半頃でした。今の若い人は知らないかも知れませんが、この言葉は当時、メディアでもビジネスの世界でも良く使われていました。

一般に革命というのはクーデターとは異なり、弱い立場だった人たちが支配者側を倒して権力を奪うことを指しますね。
当時は「パソコンが使えない人はこれからの時代は滅びる」だとか「仕事がなくなる」などと色々と言われていたので、まあ社会の支配層に居るパソコン音痴のオジさん達を、パソコンの知識を持つ若者が脅かすといった意味で使われていたのだと思います。

ですが最近はもうこの言葉を聞くことはありませんね。つまり、革命は既に完了したと考えるべきでしょう。

当時のIT革命とは主にパソコンによる社会の変化のことでしたが、知っての通り現在はスマートフォンがパソコンの代わりに置き換わりました。
そして現在に於いてもパソコンが使えない人は滅びてはいません(笑)。むしろパソコンを使う人は一時と比べて減り、代わりにスマホやタブレットだけを使っている人が増えているのではないでしょうか?

2000年前後には確かに日本にも、いわゆるIT企業と呼ばれる物が多く誕生しましたが、未だに大企業と呼ばれる時価総額の大きい企業はトヨタやソニーなどであり、その顔ぶれは90年代以前と全く代わり映えしません。

以前にも書きましたが、IT革命後にもアメリカのGAFAMの様な巨大IT企業は日本からは誕生していませんね。

さて、ではスマホを含めたIT革命は一体社会の何を変えたのでしょうか?
確かにスマホやネットが普及したことで、人々の生活は大きく変わりました。紙を使った手紙の代わりにSNSやメールを使うようになり、フィルムを使った写真の代わりにデジタルカメラになり、リモートワークなるものもようやく普及してきましたね。

でもそれらの枝葉末節な話やテクニカルな話ではなく、我々人間のあり方として根本的に、そして本質的には何が変わったと思いますか?
歴史を見れば今までにもテクノロジーが進歩して道具が変わり、社会が変わったことはたくさんありましたが、IT革命には今までの文明の進化にはなかった特殊な変化があると思いますか?

或いは単に道具が変わっただけで人間の本質的なあり方は何も変わっていない? 確かにそういう解釈もあるかも知れませんね。
では私の考察を書いてみましょう。

私はIT革命以後に人々の社会的なあり方が大きく変わったと考えています。そしてその現象はこれからも進むことでしょう。
その本質的に変わった内容とは、

必要とされる優秀な人の数が減ったこと

です。

優秀な人とは各ジャンルごとの有能な人、つまりエキスパートのことであり、例えば昔ならば村で一番歴史に詳しい者、村で一番計算が速い者、村で一番田植えが上手い者、村で一番子どもに数学を教えるのが上手い先生、村で一番の力持ち、村で一番病気に詳しい医師、はたまた村で一番の美女……etc。

昔は村に限らずどこに行っても必ず閉ざされたコミュニティーがあり、その中にまた小さなコミュニティーが入れ子構造になっていて、コミュニティーごとに人々にはそれぞれの役割がありました。

なので別に日本で一番なんかでなくとも、小さなコミュニティーの中で一番であれば人々から重宝されたのです。
もちろん日本で一番の者は昔からどこかに居たのでしょうが、昔はその者達とは物理的に接触することがなかったので居ても居なくても関係なかったのですよ。それよりも近くに居て接触できる者が大事でした。

分かりやすい例えとして、漫画“ドラえもん”を例にしてみましょう。
ドラえもんは若い人も知っていますよね?

知っての通り、ドラえもんには多くのキャラクターが登場します。
体が大きくケンカが強いガキ大将のジャイアン。お金持ちで性格の悪いスネ夫。容姿の可愛いしずかちゃん。カッコいい上に勉強も出来る出木杉くん。そして何の取り得もないけど特殊な道具(ドラえもん)を持っているのび太。

それぞれの個性や特技、つまり“キャラ”を持つ彼らが小さなコミュニティーを作っているわけですね。
ですがもし、このコミュニティーの中に例えばスネ夫よりも金持ちの子が入ってきたらスネ夫はどうなるでしょうか?
ジャイアンよりもケンカが強い子が入ってきたら? しずかちゃんよりも可愛い子が入ってきたら? 出木杉くんよりも頭の良い子が入ってきたら?
ドラえもんではなく、ドラミちゃんを所有する子が入ってきたら?

当然、今の彼らの立場は無くなってしまいますよね……。実際にこの手のことは学校でも会社でも、社会のどのコミュニティーでも頻繁に起きていることでしょう。(今風に言うと「上位互換の人が来ちゃった」かな?)

そして実はこれこそがIT革命がもたらしたことなのですよ。

原作のドラえもんが書かれたのは1970年代から80年代頃だったと思いますが、もし彼らが今のネットやSNS、YouTube全盛の現代に生きていたらどうでしょうか?
世の中にはスネ夫よりも金持ちでいいおもちゃを持っている子どもがたくさん居ることを知るでしょうし、ジャイアンよりも体が大きくケンカも強い子どもがたくさん居ることも、またしずかちゃんよりも容姿が可愛い女の子がいることも、そして出木杉くんよりも勉強が出来る子が居ることも知るでしょう。

昔は全国の人とは物理的な距離が障害となって接することはありませんでしたが、今ならばその気になればSNS等を通じてその子達とチャットやビデオ通話だって出来るし、知識や勉強を教えて貰うことも出来るかも知れません。
また、しずかちゃんよりも可愛いアイドルに会いに行って握手をすることだって出来るでしょうし、昔のテレビで見ることしかしか出来ない時代のアイドルとは違い、今のアイドルはツイッターをフォローしたらコメントを返信してくれるかも知れません。

つまりもっと上の存在を知り、更に彼らとコミュニケート出来るとなると、身近なコミュニティーに居るのび太の周りのキャラは、途端に色褪せて見えてしまうのですよ。
そうなるとドラえもんを持っているのび太だけが唯一無二になるのかも知れませんね。

さて、私が何が言いたいのか分りましたか?
IT革命後は上記の“村で一番の人たち”は必要なくなったのですよ。それどころか町で一番、都道府県で一番、もっと言えば日本で一番すらも危ういでしょう。
今では日本どころか世界のトップの人たちの知恵が日本語への翻訳付きで容易に手に入ります。

ITが普及したおかげで例えば教師ならば、日本で一番数学を教えるのが上手な一人の先生が、リモートで全国の生徒に教えれば良いのです。他の先生は必要ありません。ましてや村で一番程度では、全く価値がないのです。
そしてそれに近い現象は既にYouTubeの世界で起きていますね。

因みに若い頃の私は自分の周りではコンピューターや宇宙に詳しいキャラだったので、昔は色んな人に尋ねられて教えたりしたものですが、当然私だって日本で一番詳しいわけではありません。
そして今ではYouTubeの中でこれらについて「我こそ一番詳しくて上手に教えらる」という人たちが競っていますよね。なので私が現代の若者だったらおそらく質問してくる人は居なかったことでしょう。
つまり現在に於いては、私の存在価値は少なくともある部分に於いては、相対的に落ちてしまったことになります。


話をまとめましょう。
要するにIT革命が本質的に変えた事というのは“コミュニティーで一番の人”の必要性を無くし、

全国で最も優秀な人が総取りする社会

にしたのです。

これは実に大きな問題です。以前、日本のスパコンの性能について「二位じゃダメなんですか?」といった国会議員が居ましたが、IT革命後はダメなのです。
だって皆さんは”価格ドットコム”で何かを探して買うときに、全く同じ物を2番目に安い店で買いますか?(笑)

この”価格ドットコム”だってIT革命がもたらした象徴的なサービスと現象でしょう。
つまり簡単に言えば、これからはとてつもない格差社会となるのです。

私がなぜこれを大きな問題だと言ったかというと、この現象は人々の役割を奪うことになるからです。
今までにも散々「好きなことよりも得意なことを職業にした方がいい」だとか「人にはそれぞれ役が有る」と言ってきましたが、この現象はそれとバッティングしてしまうのです。

となると実はこの問題もメタフェイスに絡んでくるのですよ。

今までに何度も言ってきたとおり、質、量、時間的な長さ、共に最も大きい幸福を感じるためには自分以外の誰かの役に立つ事が必須でしたが、これからは一番の人しか役に立てなくなるのです。
仮に今後、ChatGPTのような物が存在しなかったとしても、です。

そうです。察しの良い方は分かったと思いますが、今後はその“一番”が人ではなくなるもしれません。
いいえ、多分そうなるでしょう。

そんな世界で我々人類はどうやって幸福度を上げれば良いのでしょうか?


この”一番の人”だけが必要とされる現象はこれから更に進むことでしょう。だって後退する理由がありませんからね。

これは満腹パイの時代の様な先の話では無く、間もなくやってきます。
そんな世界で我々はどうやって自分のアイデンティティーや価値を維持するのでしょうか?
一番ではない殆どの人は、幸福になるために一体何をするべきなのでしょうか?
そもそもIT化された社会は正しい方向に進んでいるのでしょうか?

私は、解決策としての解は大きく分けて二つあると思っています。

皆さんも是非考えてみてください。


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