自由意志の有無がなぜ重要なのか? その2


続きです。
ではここで人間の自由意志の有無と、未来が決定しているかどうかのパターンを整理してみましょう。
組み合わせは以下の四つのどれかになるはずです。

1,人間は自由意志を持ち、且つ未来は決まっている。(矛盾するため不可)
2,人間は自由意志を持ち、未来は決まっていない。
3,人間は自由意志を持たず、未来は決まっている。(古典物理的な世界観。3D映画仮説
4、人間は自由意志を持たず、未来は決まっていない。

”1”は論理的に矛盾するため成立しません。
そこでここでは人間が自由意志を持たないとする”3”と”4”について考えてみましょう。

まず”3”について考えてみましょう。
もし”3”が正しいとすると、脳の中は量子力学が無視出来るほどのマクロな世界だけで完結しており、未来は実質的に古典物理的に決まっているのですか?

ですが脳細胞は神経伝達物質である「分子」と電気の流れ、つまり「電子」をニューロン間の通信に使用していますよね?
因みに”フラーレンc60”という超巨大分子でさえも、二重スリット実験で量子力学的効果(波の性質)があることが知られています。つまり、分子レベルの大きさは完全に量子力学が支配する世界だと思われます。また電子に関しては言うに及ばずですね。
それなのに脳の中は全て古典物理だけで完結していると考えるのは無理があると思われます。

仮に脳の中だけで完結する量子力学的現象が起きなかったとしても、外部から脳に量子を打ち込むことで人の行動は大きく変化することが知られています。
そして現在ではそれがうつ病の治療などに使われています。

更に言えば脳には常に放射線が入っているはずですし、少なくとも目には光子が入っています。そして目に入った明るい光は脳を覚醒させたりしますよね?

もっと分かりやすい例を挙げるならば、今までに何度も書いてきたシュレディンガーの猫の実験で、被検者が箱を開けた時に猫が生きていたら右手を上げ、死んでいたら左手を上げるというルールを作って実験を行うとしましょう。
どちらの手を上げるのかは間違いなく人間の行動ですが、猫の生死は箱を開けるまでは決まっていませんでしたね?
ええ、これは事前に人間が知ることが出来ないのではなく文字通り「決まっていない」とするのが量子力学の説明でした。
よって被検者がどちらの手を上げるのかも物理的に決まっていないことになります。
この例だけでも、人間の未来の行動は決まりようがない事が分かるはずです。

つまり人体の外部の量子力学的現象と人間の行動は不可分なのですよ。なので「量子力学が正しい限り」、未来の行動は全て決定しているとする”3”の3D映画仮説は考えにくいと思われます。


次に”4”の人間が自由意志を持たないとして、且つ宇宙が出来たときの初期条件と物理法則だけで全ての未来が決まっているとする決定論は間違っている、つまり現代物理の法則が正しいとしましょう。
きっと識者の中ではこの”4”のパターンが一番多いのではないでしょうか?

そうなると人間の脳の中の未来も決まっていないことになり、且つ我々の意志で自分の行動を決めることも出来ないことになります。
つまり自分が次に何をするかは決まっていませんが、自分の意志でそれを決めることは出来ないという世界観でしょう。
例えるならこれは、マルチエンディングの3D映画仮説といったところでしょうか?
物語の未来は決まっていませんが、そこに我々の意志は介入することが出来ないイメージです。

では我々の行動が自分の意志では決められず、且つあらかじめ物理的に決まっているわけでもないとしたら、

我々の行動を決めているのは一体誰(何)なのですか?

神ですか? 
それとも量子力学に基づくサイコロ的な完全な偶然ですか?

それを決めている何らかの存在のことを「意志」と呼ぶのではないですか?
そしてその意志のコントロールが及ぶ範囲のことを(脳を含めた)「肉体」と呼んでいるのではないですか?
だって我々は他人の手足を直接動かすことは出来ませんから。

或いは我々の行動を決める「何か」などはそもそも存在せず、脳の中は、つまり我々の行動は全てサイコロを振るようにその都度「偶然によってのみ」決まっているのですか? 偶然だけで例えばピアノが弾けたり小説が書けたりするのでしょうか?
私がこの文章を書いているのも私の意志ではなく、偶然によって決まったことを私が自分の意志だと錯覚しているのでしょうか?

はたまたそうでもなく、脳の中は確かに厳密には量子力学的現象が存在しますが、波動方程式の確率の波はほぼ一点に集約するため実質的に古典物理の様に、機械的に外部の入力に対してほぼ決まった合理的な答えを出力(行動)として出しているのでしょうか?


もし人間に自由意志が存在しないと仮定すると、ちょっと考えただけでもこれだけ多くの疑問に答える新しい仮説が必要となります。
ですが逆に人間に自由意志が存在すると仮定すると、リベットの実験結果の「解釈を変えるだけ」ですみませんか?

「物理学を便利な道具を作ることだけに使うのではなく、人間の本質的な部分に影響を与えるものとして使う」と始めに書きました。
そして現代物理によれば、未来が全てが決まっているとする運命論は間違っています

確かに人間が自由意志を持っているとしても、それを完全証明することはもしかしたら原理的に不可能かも知れません。
ですが

人は自由意志を持っていると考えた方が自然である

と私は考えています。
そして殆どの人がそう思えたならば、私の目的は達成されたことになります。

ではこれから人間の意志の話に深く切り込んでいくとしましょう。


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